ユーザー様がオススメする映画・本をご紹介します。
ネタバレ注意でお願いします。
タイトル
「花宵道中」 宮本あや子
あらすじ
時は江戸吉原。景気の良かったのは昔の話。
小見世「山田屋」の女郎「朝霧」は器量良しではないけれど、芸事が達者な人気女郎。
ある日、出かけた縁日で朝霧は、半次郎と出会う。
朝霧を女郎とは知らず、朝霧に惹かれる半次郎。朝霧も半次郎に恋心を抱きます。
しかし2人の無垢な恋は、過酷な運命を辿るのです。
ネタバレ
ネタバレを読む山田屋の女郎が順々に主人公となって、各々の「恋」のお話が描かれています。
「女郎の恋」というだけでわかると思いますが、ほぼほぼ彼女たちの恋は成就しません。
朝霧については、半次郎が朝霧の客を殺し、殺人犯として死刑になった後、朝霧も後追い自殺をしてしまいます。
朝霧の姉女郎の霧里は血を吐く病(おそらく結核)で亡くなりますし、妹女郎の八津は髪結いと恋仲になって足抜けを考えますが、断念。
山田屋一の器量良しの緑は、同じ女郎の三津に禁断の恋心を抱き、体の関係を持ちますが、三津は病で亡くなってしまいます。
・・・と、悲しいお話が圧倒的に多いです。
だからこそというか、愛し合う2人のわずかな逢瀬とか、お互いを思い合う気持ちが、美しく悲しく、艶やかに切なく読者の胸に刺さります。
感想
随分前に買った本ですが、未だに定期的に読み返してしまいます。
壊れそうに繊細な人間の心を、美しく優しい文体で書かれていて、読みやすいのに深く心を動かされます。
個人的には、朝霧の姉女郎の霧里の話がいちばん好きです。
山田屋にいる女郎はみな、山田屋に来る前に来た後も、過酷な人生を歩んでいるのですが、中でも霧里が過酷さナンバーワンではないでしょうか。
実は霧里は朝霧の恋人、半次郎の実の姉です。
男たちが思わず「拝みたくなる」くらいの、美しい顔を体を持つ霧里ですが、その美しさが逆に彼女を苦しめます。
美しいからと女たちに嫉妬され、美しいからと男たちがその体を弄んで喜ぶ・・・美しくてよかったことなんて、あったかなぁ。という作中の霧里の独白が印象的です。
平均的な顔立ちの私は、美人の苦悩を垣間見た気がします。
恋の話が圧倒的に多いのですが、霧里だけは恋を知らないまま亡くなってしまいます。
彼女の心の中にいた男性は、弟の半次郎だけでした。
霧里は何度も半次郎に会いたいと願います。けれどそれは叶うことなく、今際の際に彼女は半次郎の幻を見ます。
彼女は幸せそうな笑みを浮かべたまま、息を引き取ってしまうのです。
救いのないお話ではなんですが、何度も読んでしまいます。それも彼女の美しさが、私を引き寄せているのだと思えてなりません。